2026/01/20
歯並びが悪いことは見た目の問題だけではありません。実は、歯の位置や噛み合わせの乱れが原因で舌に 慢性的な刺激 が加わると、「舌がん(舌癌)」の発症リスクを高める可能性があります。舌がんは他のがんに比べると頻度は高くありませんが、口腔がんの中では約6割を占める最も多いがんであり、若い世代でも発症しうる病気です。本記事では、歯並びの悪さと舌がんの関係について正しく理解し、リスク軽減のために何ができるかを考えてみましょう。特に歯列矯正(歯並びを整える治療)の中でもマウスピース矯正に注目し、当院(京都府宇治市の歯科医院・矯正歯科「矢野歯科医院」)で導入しているインハウス矯正「SMA(シャープメモリーアライナー)」の特徴・利点についても詳しくご紹介します。
舌がんとはどんな病気?
舌がんとはその名の通り舌に発生するがんで、口を大きく開けたときに見える舌の前方2/3の部分にできる悪性腫瘍です。口腔がん(口の中にできるがん)の約60%を舌がんが占めており、特に舌の縁(側面)や裏側にできやすい特徴があります。初期には痛みなど自覚症状が少なく、白っぽい斑点(白板症)や赤い斑点(紅板症)程度しかわからないこともありますが、進行すると潰瘍(ただれ)ができたり、しこりができて痛みや出血を伴うことがあります。舌は食べ物の味を感じたり飲み込んだり、会話を助けたりする重要な器官ですから、舌がんが進行すると食事や会話にも支障をきたし、生活の質が大きく低下してしまいます。
舌がんそのものの明確な原因は未だ解明されていませんが、いくつかの危険因子(リスクファクター)が知られています。その代表例として挙げられるのが、長年にわたる 舌への慢性的な刺激 です。刺激には、大きく分けて以下の二種類があります。
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化学的な刺激: 喫煙や過度の飲酒、香辛料など刺激の強い食品の常習的摂取、非常に熱い飲食物による火傷などが該当します。これらは舌の粘膜を繰り返し刺激・炎症させることで発がんリスクを高めます。特にタバコとアルコールは相乗効果でリスクを大きく上昇させることが知られています。
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物理的な刺激: 歯列不正(歯並びの乱れ)や虫歯・欠けた歯の放置、合っていない被せ物や入れ歯などで舌が継続的にこすれる状態が挙げられます。一ヶ所に集中した繰り返しの物理的刺激は、舌の組織に慢性的な炎症や潰瘍を生じさせ、これが長期化すると細胞が変異をきたし癌化につながる恐れがあります。実際に「極端に傾いた歯(歯並びの悪い歯)や合わない入れ歯が長期間舌に触れていること」が舌がんの原因の一つとして指摘されています。
このように舌がんの発症には様々な要因が絡みますが、「歯並び」の悪さも見逃せないリスク因子の一つです。では具体的に、どのような歯並びの問題が舌への物理的刺激につながるのか、次の章で見てみましょう。
歯並びの悪さが舌に与える影響とは
歯並びが悪いからといって必ず舌がんになるわけではありません。しかし、歯の配置や向きによっては舌に歯が常に当たってしまうケースがあり、そのような歯並びの場合は舌がんのリスクが高くなると考えられています。具体的には、以下のような歯列不正が舌への慢性的刺激を引き起こす代表例です。
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下の歯が舌側(内側)に倒れている場合: 本来まっすぐ生えるべき下顎の歯が、歯並びの列から外れて舌側に傾いて生えていると、舌の側面に常に歯が触れてしまいます。その部分に慢性的なこすれや圧迫が生じるため、舌がん発症のリスクが高まります。
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噛み合わせが悪く舌を噛みやすい場合: 上下の噛み合わせの不調和から、食事や会話の際に舌を挟んだり噛んでしまうことが頻繁に起こると、それが繰り返し舌への外傷となって炎症を引き起こします。その結果、長年かけてがんのリスクを高めることがあります。
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歯列が狭く舌の収まるスペースが少ない場合: 歯並びは本来U字型のアーチを描きますが、鼻でなく口で呼吸する癖などにより顎の成長に影響が出ると、歯列の幅が狭くV字型になることがあります。アーチが狭いと舌が歯に当たりやすくなり、結果的に舌の縁が常に歯に押し付けられる形となってしまいます。こうした状態も舌への慢性的刺激につながります。
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舌の縁に歯型の跡がついている場合: 鏡の前で舌をベーッと出してみて、舌の縁がデコボコ(波打つよう)になっていたり歯の跡がくっきり残っている場合、日常的に舌が歯に圧迫されているサインです。この「舌圧痕(ぜつあっこん)」は、舌自体がむくみやすい体質や歯ぎしりの癖、低位舌(舌の位置が通常より下がっている状態)などによって現れますが、歯ぎしりや低位舌は歯並びの悪さと関連して起こることが少なくありません。舌圧痕がある方は舌と歯が常に接触している証拠なので、放置するとその部分が慢性的刺激を受け続けることになります。
上記のように、歯並びの乱れから生じる舌への物理的刺激は決して珍しくありません。特に舌の側面(奥歯や尖った歯が当たりやすい部分)に 繰り返し口内炎やただれができる 場合や、舌に慢性的なヒリヒリ感・違和感がある場合には要注意です。一ヶ所に続く口内炎が2週間以上治らない場合や、舌の側面に常に何か当たっていると感じる場合は、早めに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診して検査することをおすすめします。早期発見できれば舌がんは治療可能ながんですので、不安な症状は決して我慢せず専門家に相談してください。
舌がんを予防するためにできること
舌がんの予防策として大切なのは、先に挙げたリスク要因をできるだけ排除することです。具体的には次のようなポイントに気を付けましょう。
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口内を清潔に保つ: 毎日の丁寧な歯磨きやデンタルフロスで歯垢をしっかり除去し、虫歯・歯周病を放置しないようにします。お口の中を清潔に保つことで、舌の粘膜を健全に保ち炎症リスクを下げることができます。
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刺激物の摂取を控える: タバコはできるだけ控え、飲酒は適量に留めましょう。特に強い香辛料や熱すぎる飲食物の摂りすぎにも注意が必要です。刺激の強い食事は舌にダメージを与えるだけでなく、粘膜の乾燥も招きます。適度な刺激は問題ありませんが、日常的に過剰摂取しないように気を付けてください。
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舌を刺激する原因を放置しない: 常に舌に当たってしまう尖った歯や不適合な被せ物・入れ歯がある場合、早めに歯科で調整・治療してもらいましょう。そして歯並びが原因で舌に刺激が加わっている場合、歯列矯正(矯正治療)を受けることで異常な刺激を取り除くことが可能です。実際に、矯正治療によって歯並びを整えた結果、舌の違和感や口内炎が改善したケースも少なくありません。歯並びの問題は放置せず、ぜひ専門医に相談してみてください。
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定期的に歯科検診を受ける: 歯科医院での定期検診では、むし歯や歯周病だけでなく舌や頬の粘膜の状態もチェックしています。プロによるお口のチェックを受けていれば、万が一異常があっても早期発見・早期対処が可能です。「特に異常は感じていない」という方も、半年~1年に一度は定期検診を受け、舌を含めたお口全体の健康管理をしましょう。
以上のような予防策に加え、「もしかして舌がんかも?」と不安な症状がある場合は自己判断せず専門医を受診することが大切です。舌がんは早期に発見できれば5年生存率が90%以上とも言われる比較的予後の良いがんです。お口の中は自分でも観察しやすい部位ですから、日頃から舌の状態をセルフチェックし、異変に気付いたらすぐに検査を受けるようにしましょう。
歯列矯正で舌がんリスクを減らす ~マウスピース矯正という選択~
歯並びが原因の慢性刺激を取り除くには、やはり歯並びそのものを改善することが根本的な解決策になります。歯並びを整える治療を総称して歯列矯正(矯正歯科治療)といいます。矯正治療というと子どもの頃に行うもの、あるいは「歯にワイヤーやブラケット(金属の装置)を付ける治療」をイメージする方も多いでしょう。確かに従来は金属ブラケットとワイヤーを用いた矯正が主流でしたが、近年は大人の方を中心にマウスピース矯正(透明なマウスピース型の矯正装置による治療)が広く普及してきました。
マウスピース矯正は透明で目立たないことや取り外しができる気軽さから人気がありますが、それだけでなく舌やお口の粘膜に優しい点でも優れています。ワイヤー矯正ではどうしても金属装置が舌や頬に当たって口内炎ができたり痛みを感じたりすることがあります。しかしマウスピース矯正では、患者様専用に作られた透明な樹脂製のマウスピース(アライナー)を歯に装着して歯列を少しずつ動かすため、装置に尖った部分がなく違和感が少ないのです。舌が装置に擦れて傷つく心配もほとんどありません。また、食事や歯磨きの時には取り外せるため衛生的で、口腔内を清潔に保ちやすいという利点もあります(※装置を外して歯磨きできるぶんむし歯のリスクが低いというメリットもあります)。舌がん予防の観点からも、マウスピース矯正は口腔粘膜への負担が少ない矯正法と言えるでしょう。
もっとも、マウスピース矯正にも一般的な注意点があります。それは「患者さんご自身に装置をしっかり長時間(1日約22時間)装着していただく必要がある」ことです。裏を返せば、いつでも自分で取り外せる手軽さゆえについサボってしまうと計画通り歯が動かないというデメリットがあります。しかしこの点は患者さんの意識次第で克服できますし、裏側からの矯正装置などと比べても装着時間さえ守れば快適に続けやすい治療法です。以上を踏まえて、「歯並びを治して舌への刺激をなくしたいけれど、ワイヤー矯正は抵抗がある…」という方にはマウスピース矯正は非常に良い選択肢となります。
インハウス矯正「SMA」のメリット(当院のマウスピース矯正)
マウスピース矯正と一口に言っても、実はさまざまな種類・メーカーの装置があります。有名なところでは世界的シェアのインビザラインがありますが、その他にもアソアライナー、クリアコレクト、SmileDirectClubなど国内外に多数の製品が存在します。それぞれ装置の素材や製造方法に違いはありますが、多くは歯科医院で型取りやスキャンしたデータをメーカーに送り、外部の専門ラボでマウスピースを作製してもらう「外部作成」タイプです。一方、近年注目されているのがインハウス矯正と呼ばれる方法です。「インハウス(in-house)」とは「院内で」という意味で、その名の通り矯正装置の設計から製造までを院内で行うスタイルのマウスピース矯正です。
インハウス矯正には、外部のメーカーに頼らず自院で直接マウスピースを作れるからこそのメリットが数多くあります。当院でも最新のインハウス矯正システム「SMA(Sharp Memory Aligner)」を導入しており、患者様一人ひとりにオーダーメイドの矯正装置を院内で作製しています。では具体的にインハウス矯正SMAにはどんな利点があるのか、主なポイントを解説しましょう。
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治療開始までがスピーディー: 院外のメーカーに作製を依頼する場合、データ送信から治療計画の作成・装置製造・海外からの郵送までに およそ1ヶ月 を要します。一方、院内でマウスピースを製造できるSMAではそのプロセスをすべて院内完結できるため、約1週間ほどで治療開始に必要なマウスピースを作製できます。装置の微調整や作り直しが必要になった場合もすぐ院内で対応できるため、その都度何週間も待たされるということがありません。結果として治療全体のスピードも早まり、患者様の負担軽減につながります。
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精密で納得のいく治療計画: 当院ではマウスピース矯正の治療計画立案にNemoStudio(ネモスタジオ)という高度な3Dシミュレーションソフトを使用しています。NemoStudioでは患者様の口腔内スキャンデータと顔写真をもとに、歯や顎の骨の状態を細かく分析しながら「笑ったときにどのように歯が並んでいると美しいか」「正面から見て歯並びと顔のバランスが取れているか」といった審美面・機能面を考慮した詳細なシミュレーションが可能です。この計画を院長自らが立ててそのまま院内でマウスピースを作製するため、外部に指示書を送って作ってもらう従来法に比べて細かなニュアンスの違いが生じにくく、計画通りの仕上がりに近づけやすい利点があります。言わばオーダーメイドスーツを職人が自分の工房で仕立てるように、患者様一人ひとりの顔立ちや骨格も踏まえた精密な矯正治療が可能なのです。
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高品質な矯正装置(シャープメモリーアライナー): SMAで使用するマウスピースは形状記憶性の特殊素材でできており、当院で計画した歯の形に合わせて 3Dプリンターで直接プリント製造するアライナー です。SMAの特徴は、お湯(約60℃)にしばらく浸すと一度柔らかく変形してリセットされる点にあります。柔らかくした状態でお口の中に装着すると、体温(約37℃)によって素材が記憶している理想的な歯並びの形状に戻ろうとし、歯にフィットしながら元の形に復元していきます。簡単に言えば、「柔らかい状態で歯に装着→徐々に硬化して既定の形状に戻る」という性質を利用して歯を動かすため、非常に装着時の違和感が少なく、かつ歯への密着度が高いのです。歯へのフィット感が格段に良い分、治療計画通りに歯が動きやすく、結果として従来型より短期間で治療が完了することが期待できます。もちろん素材は透明で目立たず、安全性の高い医療用樹脂です。装置の厚みも抑えられているため発音や舌の動かしやすさにも配慮されています。
以上のように、インハウス矯正SMAは「早い・精密・快適」という三拍子揃った最新のマウスピース矯正です。実際、世界的にも矯正治療の主流が従来の外部作成マウスピースからインハウス矯正へと移行しつつあり、当院でもいち早くこのシステムを導入しています。「最先端の治療は効果が未知数で不安…」と思われるかもしれませんが、日々進歩する歯科医療の中でいずれ標準になっていくであろう技術を取り入れることで、患者様にとって最善の治療結果を提供できるよう努めております。

症例紹介:SMAによる歯並び改善のビフォーアフター
実際に当院でSMA矯正を行った患者様の一例をご紹介します。下の写真は、20代の女性患者様の治療 Before → After です。八重歯(犬歯の突出)とガミースマイル(笑ったときに歯ぐきが大きく露出する状態)にお悩みで来院されましたが、当院のSMA矯正によって わずか9ヶ月間 で大きな改善が見られました。

SMA矯正の症例写真。左が治療前(2023年9月)、右が治療後(2024年6月)の口元です。歯列全体がきれいに整い、突出していた八重歯が他の歯列に収まったことで口元の印象が大きく変化しました。また、上顎前歯の位置が適正化されたことでガミースマイルも改善し、笑ったときに歯ぐきが目立ちにくくなっています。SMAは短期間で効率よく歯を動かせるため、このように1年足らずの治療期間でも顕著な歯並びの改善が可能です。
写真からもお分かりのように、歯並びが整うことで口元の美しさが増すだけでなく、歯が舌に当たっていたような部分も解消されました。舌が常に当たって口内炎を繰り返していたようなケースでは、矯正治療後にそうしたトラブルが起こらなくなることも期待できます。歯並びの乱れを放置しないことが、舌がんを含む口腔トラブルの予防につながるのです。
まとめ ~歯並びと全身の健康のために~
歯並びの悪さは見た目だけではなく、むし歯・歯周病のリスク上昇や咬み合わせの不調和による顎関節への負担など様々な悪影響を及ぼします。そして今回取り上げたように、舌がんを含む口腔がんのリスク要因にもなり得ます。歯並びが原因で舌への慢性刺激がある場合には、ぜひ矯正治療も視野に入れてみてください。歯列矯正を受けることで歯並びが整えば、清掃性が向上してお口の衛生状態が良くなるのはもちろん、舌や頬粘膜が歯に擦れて起こるトラブルも減少します。結果として口腔がんのみならず、お口全体の健康増進につながるでしょう。見た目に問題を感じていない方でも、健康維持の観点から歯並び治療を検討する価値は十分にあります。
当院矢野歯科医院(京都府宇治市)では、最新のマウスピース矯正「SMA」を用いて質の高い矯正治療を提供しております。歯並びと舌がんの関係について不安なこと、ご自身やお子様の歯並びで気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。矯正治療の専門的な知見を持つ歯科医師が丁寧に診察し、最適な治療法をご提案いたします。お口の健康と美しさを両立させ、将来にわたって笑顔で過ごせるようサポートすることが当院の願いです。歯並び改善によるリスク軽減と快適な生活を目指して、一緒に一歩踏み出してみませんか。皆様のご来院を心よりお待ちしております。
この記事が、歯並びと舌がんの関係について正しく理解し、予防・早期発見の大切さを再認識する一助になれば幸いです。大切なのは、「異変に気付いたらすぐに対処し、原因を取り除くこと」です。美しい歯並びと健康な舌で、末永く美味しく食事を楽しみ、笑顔で毎日を過ごしていきましょう。
