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高齢者のむし歯放置は命に関わる?死亡リスクと誤嚥性肺炎を防ぐ「口腔ケア」の重要性|京都府宇治市伊勢田町の歯医者・歯科|矢野歯科医院 宇治歯科診療所

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高齢者のむし歯放置は命に関わる?死亡リスクと誤嚥性肺炎を防ぐ「口腔ケア」の重要性
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京都府宇治市のは医者 矢野歯科医院 院長の矢野隆嗣と申します。

先日、非常に衝撃的かつ、私たち歯科医療従事者が常日頃から懸念していた内容がニュースとして大きく取り上げられました。「高齢者のむし歯放置、死亡リスク1・7倍」という記事です。東北大学の研究グループによる発表で、むし歯を治療せずに放置している高齢者は、そうでない人に比べて死亡リスクが大幅に高いというデータが示されました。

地域医療を担う歯科医師として、この記事の内容を単なるニュースで終わらせず、なぜお口の環境がそこまで全身の健康、ひいては命に関わるのかを、医学的な見地から詳しく解説したいと思います。宇治市の皆様、そしてご家族の健康を案じる皆様に、正しい知識と対策をお伝えすることが私の使命です。

今回は、このニュースを深掘りし、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスクや、具体的な治療法、そして当院での取り組みについて、5000文字程度のブログ形式でまとめました。少し長くなりますが、命を守るための大切な情報ですので、ぜひ最後までお読みください。

出典:高齢者のむし歯放置、死亡リスク1・7倍に…専門家「命に関わる誤嚥性肺炎の危険性高まる」
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20260121-GYT1T00317/
https://news.yahoo.co.jp/articles/d3fb47eec259bb61c030c0bc2d462a2fffc1a729

目次

ニュースの衝撃的データ:なぜ「むし歯」が「死」に直結するのか

  1. メカニズムの解説:お口の細菌が肺に入る「誤嚥性肺炎」とは

  2. 高齢者の歯科治療:具体的な治療法と期間、身体的・経済的負担について

  3. 治療のメリット・デメリット:抜歯か保存か、その判断基準と生活への影響

  4. 命を守るための口腔ケア:矢野歯科医院が提案する「予防」と「連携」


1 ニュースの衝撃的データ:なぜ「むし歯」が「死」に直結するのか

今回のニュース記事で取り上げられた東北大学の研究結果は、私たち歯科医療界に改めて警鐘を鳴らすものでした。

要点を整理すると、むし歯があり、かつ義歯(入れ歯)を使用していない、あるいは適切な治療を受けていない高齢者は、お口の健康状態が良い高齢者に比べて死亡リスクが1.7倍になるというものです。
一般的に「むし歯」というと、「歯が痛い」「冷たいものがしみる」といった、あくまでお口の中だけのトラブルと考えられがちです。しかし、高齢者の場合、その認識は命取りになりかねません。

なぜ、たかがむし歯が死亡リスクを跳ね上げるのでしょうか。
その最大の要因として挙げられているのが「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。
高齢になると、喉の筋力が衰え、飲み込む力(嚥下機能)が低下します。
その結果、本来食道を通って胃に送られるべき食べ物や唾液が、誤って気管や肺に入ってしまうことがあります。
これを「誤嚥(ごえん)」と言います。
健康な若者であれば、むせ返ることで異物を排出できますが、体力が低下した高齢者はその反射も弱まり、気づかないうちに肺に異物が入ってしまうことが多いのです。

ここで問題になるのが「お口の中の細菌」です。
むし歯を放置しているということは、お口の中がむし歯菌(ミュータンス菌など)や歯周病菌で溢れかえっている状態を意味します。
誤嚥した唾液の中に、これらの大量の細菌が含まれていたらどうなるでしょうか。
肺に入った細菌が炎症を引き起こし、重篤な肺炎を発症させます。これが誤嚥性肺炎の正体であり、日本人の死因の上位を占める肺炎の多くが、実はこの誤嚥性によるものなのです。
つまり、むし歯を放置することは、肺に送り込む細菌の爆弾を口の中で育てていることと同義なのです。
このニュースは、歯科治療が単に「噛めるようにする」だけでなく、「感染源を断つ」という感染症対策の側面を持っていることを強く示唆しています。

2 メカニズムの解説:お口の細菌が肺に入る「誤嚥性肺炎」とは

ここでは、もう少し専門的な視点から、なぜ高齢者において口腔内環境の悪化が急速に進み、肺炎のリスクを高めるのか、そのメカニズムを解説します。
口腔内には常在菌として数億個以上の細菌が存在していますが、健康な状態であれば、唾液の持つ「自浄作用(汚れを洗い流す作用)」や「抗菌作用」によって、悪玉菌の増殖はある程度抑えられています。
しかし、加齢とともに唾液の分泌量は減少します。
さらに、高血圧や睡眠薬など、高齢者が服用することの多い薬の副作用によっても口腔乾燥(ドライマウス)が引き起こされます。

唾液が減ると、お口の中は細菌にとって絶好の繁殖場所となります。むし歯で穴が開いた歯や、歯周病で深くなった歯周ポケットは、歯ブラシが届きにくい細菌の「巣窟(リザーバー)」となります。
放置されたむし歯の内部では、嫌気性菌と呼ばれる酸素を嫌う強力な細菌が増殖し、強烈な腐敗臭を放ちます。高齢者の場合、認知機能の低下や手指の巧緻性(器用さ)の低下により、ご自身での歯磨きが不十分になりがちです。
こうして爆発的に増えた細菌を含んだ唾液を、睡眠中などに無意識に肺へと垂れ込ませてしまう「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」が、肺炎の引き金となります。

また、むし歯による「痛み」がもたらす二次的な悪影響も見逃せません。
むし歯が痛むと、食事を十分に噛むことができなくなります。咀嚼(そしゃく)機能が低下すると、柔らかい炭水化物中心の食事になり、タンパク質やビタミンの摂取量が減少し、低栄養状態に陥ります。
低栄養は身体の免疫力を低下させ、肺炎にかかった際の回復力を奪います。
さらに、噛まないことで脳への刺激が減り、認知症の進行を早めるというデータもあります。
つまり、むし歯の放置は、細菌による直接的な肺炎リスクを高めるだけでなく、全身の虚弱(フレイル)を加速させ、死期を早める負のスパイラルへの入り口となっているのです。

3 高齢者の歯科治療:具体的な治療法と期間、身体的・経済的負担について

では、実際に高齢者のむし歯治療を行う場合、どのような選択肢があるのでしょうか。
患者さんの体力や認知症の有無、残存歯の状況によって治療方針は大きく異なりますが、代表的な治療の流れと期間、そして患者さんやご家族が気になる負担について具体的に解説します。

まず、軽度から中等度のむし歯の場合です。
この段階であれば、むし歯部分を削り、樹脂(レジン)や金属で詰める治療を行います。これは通常の成人に対する治療と同じです。

・治療期間:1回〜数回
・経済的負担:保険適用で数千円程度(3割負担の場合、1割ならさらに安価)
・身体的負担:局所麻酔を使用する場合があるが、比較的軽い この段階で治療できれば、ご本人の負担も少なく、誤嚥性肺炎のリスクも早期に低減できます。

問題は、今回のニュースにあるような「放置された重度のむし歯」の場合です。歯の神経まで細菌が侵入している、あるいは歯の根元しか残っていないような状態(残根状態)です。
ここでの選択肢は大きく分けて二つ。「根管治療(歯の根の治療)をして歯を残す」か、「抜歯をして入れ歯などにする」かです。

「根管治療」を選択する場合、汚染された神経を取り除き、根の中を消毒して薬を詰めます。

・治療期間:週に1回程度の通院で、1ヶ月〜数ヶ月かかることもあります。高齢者の歯は石灰化しており、治療が難航する場合が多いです。
・経済的負担:保険適用で一連の治療に数千円〜1万円程度。
・身体的負担:口を長く開けている必要があり、通院回数も多いため、体力のない高齢者には負担が大きい場合があります。

一方、「抜歯」を選択する場合です。
保存が不可能、または動揺が激しく誤嚥のリスク(抜けた歯を飲み込むリスク)がある場合は抜歯を選択します。
抜歯後は、ブリッジや入れ歯で補います。

・治療期間:抜歯自体は1回。その後、歯茎の治りを待って入れ歯作成に1〜2ヶ月。
・経済的負担:保険適用の入れ歯であれば数千円〜1万円程度。
・身体的負担:抜歯時は外科処置となるため、血圧や服用薬(血液サラサラの薬など)の管理が必要です。

私たち歯科医師は、単に「歯を残すこと」だけを正義とはしません。
無理に歯を残すことで感染源が残り続けるリスクと、抜歯をして口腔内を清潔にしやすくするメリットを天秤にかけ、患者さんの全身状態や介護環境に合わせて最適なプランを提案します。

4 治療のメリット・デメリット:抜歯か保存か、その判断基準と生活への影響

高齢者の歯科治療において、ご本人やご家族が最も悩まれるのが「治療に伴う身体的・精神的ストレス」と「治療後の生活の質(QOL)」のバランスです。
ここでは、治療方針ごとのメリットとデメリットを、より生活に密着した視点で整理します。

まず、徹底的に歯を治療し保存する場合のメリットは、やはり「自分の歯で噛める」ことです。
自分の歯には歯根膜というセンサーがあり、食事の食感や味わいを脳に伝えます。これは生きる意欲に直結します。
しかし、デメリットとして、治療のための通院自体が大きなストレスになることがあります。
足腰が悪い方にとっての歯科通院は重労働です。
また、認知症がある場合、口を開け続けることが難しく、治療器具での怪我のリスクも伴います。精神的にも「歯医者は怖い」という恐怖心が血圧上昇を招くこともあります。

一方、思い切って抜歯をし、義歯(入れ歯)にする場合のメリットは、感染源であるむし歯菌の巣窟を一掃できることです。
これにより口腔内の細菌数が激減し、誤嚥性肺炎のリスクは下がります。
また、介護者にとっても、複雑な形の残根を磨くより、総入れ歯を外して洗う方が口腔ケアが容易になり、結果としてお口を清潔に保ちやすくなります。

デメリットは、やはり「噛み心地」の変化です。入れ歯は天然歯に比べて噛む力は3分の1程度になると言われます。
慣れるまでは痛みが出たり、話しにくくなったりすることもあり、精神的な落ち込み(喪失感)を感じる方もいらっしゃいます。

経済的な面では、保険診療の範囲内であれば、日本は非常に安価に高度な医療を受けられる国です。
しかし、より噛み心地の良い「金属床義歯」や、ご自身の歯のように噛める「インプラント」などの自費診療を選択する場合は、数十万円〜といった高額な費用がかかります。
高齢者の場合、今後の予後(あと何年その歯を使えるか)と費用の対費用効果を慎重に考える必要があります。
私たち矢野歯科医院では、こうしたメリット・デメリットをすべて提示し、ご本人の意思はもちろん、ご家族やケアマネージャーさんの意見も交えて、生活全体を支えるための治療計画を立てることを大切にしています。

5 命を守るための口腔ケア:矢野歯科医院が提案する「予防」と「連携」

むし歯放置が死に至るリスクを高めることはご理解いただけたかと思います。
では、どうすればこのリスクを回避できるのでしょうか。答えは「治療」の先にある「予防」と「継続的な管理」にあります。

まず、ご自宅や施設でできるケアとして重要なのは「物理的な清掃」と「保湿」です。
歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやスポンジブラシを使用して、粘膜についた汚れも取り除いてください。
また、乾燥したお口は細菌が増えやすいため、口腔保湿剤(ジェルなど)を使用して潤いを保つことも、肺炎予防に極めて有効です。

しかし、ご家庭でのケアには限界があります。
そこで重要なのが、歯科医院でのプロフェッショナルケアです。
当院では、定期的な検診とクリーニングを強く推奨しています。
歯石やバイオフィルム(細菌の膜)は、歯ブラシでは除去できません。
歯科衛生士による専門的なクリーニングを受けることで、口腔内の細菌数を劇的に減らすことができます。

矢野歯科医院は、宇治市の地域医療の拠点として、内科医や介護スタッフとも連携し、患者さんのお口の健康から全身の健康を守る「チーム医療」を推進しています。
「もう歳だから」と諦めず、むし歯が痛む前、あるいは入れ歯が合わなくなる前に、ぜひ一度ご相談ください。
放置してしまったむし歯がある方も、怒ったりしませんので、勇気を出して受診してください。その一歩が、寿命を延ばし、豊かな晩年を守ることに繋がります。


まとめ

今回のYahooニュースの記事は、高齢者のむし歯放置が命に関わる重大な問題であることを示しました。死亡リスク1.7倍という数字の背景には、お口の細菌が引き起こす「誤嚥性肺炎」の存在があります。

  1. むし歯の放置は細菌の爆発的増加を招く:これが肺炎の直接的な原因になります。

  2. 早期治療がカギ:痛みが出る前の治療が、身体的・経済的負担を最小限にします。

  3. 抜歯か保存かは全身状態で判断:無理に残すことがリスクになる場合もあります。専門家と相談しましょう。

  4. プロによるケアの重要性:自分では取りきれない汚れを歯科医院で除去することが、命を守る予防策です。

宇治市の矢野歯科医院では、患者さん一人ひとりのライフステージや全身状態に合わせた、心に寄り添う歯科治療を提供しています。
ご自身のこと、ご高齢のご家族のこと、お口に関することで不安があれば、いつでもお気軽にご相談ください。 皆様の健康寿命を延ばすお手伝いができることを、心より願っております。

京都府宇治市 矢野歯科医院 院長 矢野 隆嗣